主に中央メキシコを起源とする「アステカ神話」。ギリシャ神話などに比べると少々馴染みの薄い神話ですが、今回はそのアステカ神話における最強神の一角、「テスカトリポカ」に関する考察レポートです。
アステカ神話における「最強神」にして「悪魔」
「テスカトリポカ」、まず名前の響きが独特です。その名は「煙り吐く鏡」との意味を持ち、当時儀式に用いられていた「黒曜石の鏡」と関連するよう。実際、片足が「黒曜石の鏡」になってる姿で描かれることもあるがその理由は後述します。
「テスカトリポカ」はその神話系において「最も強い力を持つ」とされ、時に「悪魔」と呼ばれることもある存在です。
そのイメージ通り、「善なる神」というよりは「荒ぶる神」としての側面を強く持つ存在であり、その祭祀には若い男性が供物として捧げられたともいわれています。まさに「アステカの黒き最強神」と呼んで過言ではなさそうです。
「ジャガーの化身」を持つ戦闘神
また「テスカトリポカ」は「ジャガーの化身」を持つとされ、「戦争」や「戦い」の神として当時の戦士階級者たちからも厚く信仰を受けている。
古代アステカにおいて「ジャガー」そのものが信仰の対象であり、「ジャガーは人になることができ、人もまたジャガーになることができる」、つまりジャガー人間(ジャガーマン)との関わりはシャーマニズム的土着信仰とも強い結びつきを感じさせます。
西洋の神話系に登場する神は人間を超越した崇高な精神性をもつイメージなのに対し、「テスカトリポカ」の持つ神性は、どこか荒削りでありながらも純粋な力、「自然神」的側面を強く感じさせ、天界の神様というよりはむしろ日本神話における「国津神」などとも近い匂いを感じさせてくれます。「荒ぶる神」、んー、いいですなー
最大の好敵手「ケツァルコアトル」
「テスカトリポカ」を語る上で欠かせないのがアステカ神話のもうひとりの主神、「ケツァルコアトル」の存在です。「テスカトリポカ」とは対象的な善性を持つ神で、人々に「文明」をもたらしたとされる文化神にして「羽毛ある蛇神・ケツァルコアトル」。
この二柱の神は、時に共闘する兄弟神ともされますが、アステカ神話における最大のライバル同士です。「太陽の座」=つまり「世界の覇権」を巡り戦い、その勝敗によって世界が滅ぶ→新しい世界が再生する、という正に「世界の命運を賭けた神話級の真剣勝負」を繰り広げています。
因みにアステカ神話における世界は、神々の覇権争いによって、その勝敗のたびに再編成され、結果、現在我々人間が済む世界は「5番目の世界」にあたる。なんだかちょっと迷惑な話です。
「創造神」としてのテスカトリポカ
「ケツァルコアトル」と世界の覇権をかけた戦いを演じるなど、「戦神」や「闘神」としての側面が強いテスカトリポカですが、その一方でテスカトリポカとケツァルコアトルが力を合わせて世界を創造したという逸話もあります。
かつて海しかなかった世界、そこには「シパクトリ」と呼ばれる怪物がいました。この怪物を倒すために二人は共闘、まずテスカトリポカが自分の片足をエサに怪物シパクトリをおびき出し、その足にまんまと食らいついたシパクトリはテスカトリポカとケツァルコアトルによって倒されます。
このとき引き裂かれた怪物シパクトリの体から「大地」が創られたという、神話お決まりの天地創造話の一種ですね。メソポタミア神話における「ティアマト」にも同じような神話があるので怪物シパクトリも「国作りの神」的要素があるのかもしれません。
そしてその後「人間」が創られることになるのですが、大地となった怪物シパクトリの恨みを鎮めるために「生贄」が捧げられることになったとされ、また戦いで片足を失ったテスカトリポカはそこに「黒曜石の鏡」をつないだとされています。(ここに名前の由来がつながる!?)
どうやらこのエピソードが「生贄を求める黒き神・テスカトリポカ」のイメージを形作るベースになっているようです。同時に古き神を倒す神殺し、新しき世界を拓く神喰いの神、その荒々しさがその「黒き側面」の源流となっているのではないでしょうか?
実はほんとに「悪魔」だった?! テスカトリポカの化身
余談ですが、水木しげる著の漫画「悪魔くん」や「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する悪魔「ヨナルデパズトーリ」はこのテスカトリポカの「化身」だとされています。
「悪魔くん」では12使徒の知識担当として武闘派というより「参謀キャラ」だった気が・・・? どちらかというとテスカトリポカよりケツァルコアトルの方がイメージは近いのでは? という気もしますね。しかし遠く南米の神様の化身まで取り込む水木御大の懐の深さかな