【ドゥムジ】女神イシュタルの旦那様は「牧羊の神」|考察レポ

豊穣の神にして愛と美の女神でもある「イシュタル」はメソポタミア神話においても人気の神様であり、その破天荒な性格と逸話の多さから知名度も非常に高い。

前回はこの女神イシュタルの家族関係についてのレポートを紹介しましたが、今回はイシュタルの「旦那様」についての考察レポートです。

恋多き女神イシュタルは「既婚者」だった!?

女神イシュタルといえば「恋多き女神」としても知られています。とにかく惚れっぽい。

特にその惚れっぽさの被害者として有名なのがバビロニアの古代都市ウルクの王にして人類最古の英雄王「ギルガメッシュ」です。

最強の友「エルキドゥ」と共に魔獣フンババ討伐を成功させ、ウルクに凱旋したギルガメッシュ王。その勇姿を目にしたイシュタルはギルガメッシュに一目惚れ→速攻、求婚→秒でフラれる、という華麗なコンボを決めた挙げ句、その腹いせに「天の雄牛グガランナ」をけしかけウルクごと滅ぼそうとしたエピソードはあまりに理不尽で有名です。

結果、これがエルキドゥの死の審判の遠因になったわけですから、どちらかというとエルキドゥこそ最大の被害者かもしれませんが・・・

まあ、それはさておき、「愛と美の女神」という肩書からもイシュタルには「恋多き女性」というイメージが強い。しかしなんとイシュタルには「夫」がいます、しかも神話公式です。

あのじゃじゃ馬女神の「旦那様」とは・・・ 一体何者なのでしょうか?

「愛と美の女神」の旦那様はなんと「牧羊の神」

女神イシュタルの夫、その名は「タンムーズ」、最近ではFGOで登場した謎の黄金羊「ドゥムジ」という名前の方がピンとくる方が多いかもしれません。

実際に「羊」の姿だったかは定かではありませんが、この「タンムーズ(ドゥムジ)」は所謂「牧羊の神」。

・・・あの派手好きそうなイシュタルの旦那様が「牧羊の神」・・・? 意外と地味? いや偏見かもしれませんがフラれた腹いせに神造兵器で都市ごと滅ぼそうとするような激情型女神が選ぶ旦那様にしてはやはり大人し目な印象です。

実際のところ、イシュタルにこの牧羊の神「タンムーズ(ドゥムジ)」との結婚を勧めたのは、誰あろうイシュタルの双子の兄「太陽神シャマシュ」だったそうです。
シャマシュ兄さんといえば妹とは対象的に真面目で堅実で面倒見の良さそうなエピソードで知られる神様です、きっと素行の悪い妹の将来を案じてのことだったのでしょう、なんだか妙に納得です。

当初イシュタル本人もたいそう嫌がっていたようですが、結果この二人、付き合ってみると意外とうまくいったようでイシュタルとタンムーズ(ドゥムジ)にまつわる逸話(という恋話)は多く伝わっています。

・・・やはりツンデレ美少女と陰キャ男子とのラブコメは鉄板? どこか凸凹カップルのほっこり感すら感じさせるイシュタルとタンムーズ(ドゥムジ)夫婦ですが、「めでたしめでたし」で終わらないのがメソポタミア神話の懐の深さかな。

実はこの羊野郎、なかなかの「クセ者」

有名な「イシュタルの冥界下り」の逸話において、冥界の女主人にして姉、女神エレシュキガルの逆鱗に触れたイシュタルは身ぐるみ剥がれたうえ冥界の奥底に幽閉されてしまいます。

イシュタルを失った地上は荒廃、それを嘆いた人々はイシュタルの復活を願います。それに応えたエンキ(エア)神の助力もあり、なんとか冥界からイシュタルを連れ戻すことができた矢先、大きな問題が立ちふさがります。

つまり「魂の保存則」、地上と冥界とで魂の数を合わせるために、イシュタルが復活する代わりに、地上の誰かが身代わりとなって冥界に下らねばならない、というもの。

そこでイシュタルが自分の代わりに冥界行きを指名したのは・・・ なんと夫である「タンムーズ(ドゥムジ)」でした!

やはりこの女神、鬼、女神なのにその所業まさに鬼畜! ・・・とおもったあなた、いや今回イシュタルは悪くない。

・・・というのも、夫であるこのタンムーズ(ドゥムジ)、あろうことか妻イシュタルが亡くなったというのに喪に服さないばかりか、それをいいことに彼女亡き跡その後釜に居座ろうとする有様。

普段が地味な存在だったばっかりに余程人気者のポジションが心地よかったのでしょう。急にチヤホヤされて何か変なスイッチが入ってしまったのかも知れません、嗚呼、これが陰キャの哀しい性・・・

それを知ったイシュタルはとーぜん 大・激・怒!! 「あり得ないから! あんたは地獄で詫びなさい! この羊野郎!」とばかりに旦那を冥界に蹴り落とし無事地上への復活を果たします。

一方、タンムーズ(ドゥムジ)さんについては、義理の兄である太陽神シャマシュに泣きつき蛇に変えてまでなんとか逃げ伸びようとしますが結局捕まる、と最後の最後までなかなかの小物ぶりを発揮。
・・・なんといいますか、陰キャがスクールカースト頂点のツンデレ美少女をゲットして調子にのってやらかした感があります、これなんてラノベでしたっけ?

ただ、結局ですね、一度は羊野郎、いや旦那である牧羊の神・タンムーズ(ドゥムジ)に三行半を突きつけ冥界に突き落としたイシュタルさんでしたが、その後大いに反省。タンムーズ(ドゥムジ)の姉妹からの願いもあり、結局、タンムーズ(ドゥムジ)と彼の姉妹が半年ごとに交代で冥界に下ることとなるのでした。

つまり一年の半分、イシュタルとタンムーズ(ドゥムジ)は夫婦としてまた一緒にいることができるようになったわけです。めでたし、めでたし

嗚呼、なんというツンデレ愛、遥か神代、古代メソポタミアの時代から「ツンデレ美少女に振り回される陰キャ」はテンプレ、まさに王道、願わくばその結末はハッピーエンドであって欲しい、で、これなんてラノベでしたっけ?