産女と姑獲鳥、ウブメのお話|考察レポ

このところ、Chilla’s Art(チラズアート)さんの「地獄銭湯」のプレイ動画をよく見たりしてます。タイトル発表時に「銭湯をどうやってホラーの舞台にするんだろう?」と気になってましたが、意外や意外、わりと王道のジャパニーズ・ホラー展開。

若干ネタバレ要素もありますが、「ウブメ」という日本の妖怪伝承を絡ませてくるあたりさすがのチラズさんという感じでした。

と、いうことで今回は日本の妖怪伝承「ウブメ」に関するレポートです。

産女? 姑獲鳥? 2つの表記

通常「うぶめ」と呼ばれるものは「難産の末に命を落とした女性の霊」とされる。実際、妖怪画に描かれる「うぶめ」は「赤子を胸に抱き、血で赤く染まった腰巻きを巻いた女性」として描かれる。

「出産」という行為が比較的安全に行われるようになったのは実はかなり最近になってのこと。特に近代以前の出産はまさに命がけの行為であり、出生児はもちろん、母体の死亡率も相当なものであった。

また江戸時代を代表とする封建社会において「世継ぎを生む」という行為はお家の存続に関わる重要なものであり、そこに起こる不幸の概念化=「産女(ウブメ)」という妖怪の発生に繋がったと思われる。

しかし、実は「ウブメ」という言葉にはもう一つ表記がある。そう、有名なところでは京極夏彦先生の長編小説「姑獲鳥の夏」、この「姑獲鳥」も「ウブメ」と呼ぶ。

「コカクチョウ」としての「ウブメ」

「姑獲鳥」は「コカクチョウ」とも呼ばれる。その字面通り、元々の中国伝承では鬼神の一種ともされる怪鳥、つまり「鳥」である。

ではなぜこの鳥の怪異である「コカクチョウ」が日本では女性の霊である「ウブメ」と結びついたのか? 一つにはコカクチョウの持つ特性がある。

中国伝承で「コカクチョウ」は、他人の子供を攫って自分の子とする習性があるという。また夜に子供の服を干していると血で印をつけ、その子供は攫われる、または病気になるという話もある。つまり子供と関わりの深い怪異なのだ。

同時にコカクチョウ自身にも、毛を着ると鳥の姿に変身し毛を脱ぐと女性の姿になる、そもそもが出産で亡くなった妊婦が化けたものである、との説もある。共通項として「子供」「女性」「出産で亡くなった妊婦」があり、これらの同一性が「産女」と「姑獲鳥」を結びつけた可能性が高そうだ。

力や財を与えるというウブメ伝承

「ウブメ」には怪力や財を授けるという伝承も見受けられる。多くの場合はウブメらしき女性から赤子を抱かさせる、または子守を頼まれる→恐れずにそれをやり遂げると、ウブメからお礼として怪力や財宝の類を与えられるというものだ。

世界的に見ても「出産」という行為は、子孫繁栄ひいては種の存続という点で非常に神聖視される。特にウブメ伝承が形成されたであろう江戸時代までの日本において「出産」は世継ぎを残し、お家を維持・繁栄させるために必須の行為だったはず、まさに力と富をもたらす存在そのものだ。

だが逆に死産や妊婦の死は、世継ぎを奪われる=お家の力を奪い、ときにその存続をも脅かすものともいえる。「出産」という概念自体に潜在的な畏怖も存在していたのだろう。